間違って買ってしまった商品を返品する方法は?レンタルの場合は?

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問題間違って買ってしまった商品を返品する方法は?レンタルの場合は?

回答返品できる余地があります。
ただし、認められない可能性も相当あると考えられます。
商品を手に取るときは、見間違えないよう注意するのが無難です。

根拠法:民法95条


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相談内容

法(みのり)くん: 最近、家電量販店で、イヤホンの試聴コーナーあるよね。

律(りつ)さん: どうしたの、急に。

法くん: いや、あれって良いよね。インターネットショッピングが
これだけ普及しても、やっぱりイヤホンの質って、実際に試してみないと
わからないでしょ。

律さん: 誰かの耳の中に入ったイヤーキャップを自分の耳に入れるのは少し抵抗あるけど。

法くん: そういう場合は、除菌シートが備え付けられてる店に行ったらいいよ。
でさ、この前、試聴コーナーで、僕のXPERIAとつないでイヤホンの音を試していたら、
気に入ったものがあって。デザインも音質もフィット感もよくて、値段も手ごろ
だったから、その場で購入したんだ。

そしたら、あわててたせいか、黒が欲しかったのに、隣のコバルトブルーを
買ってしまって。家に帰ってから気づいたんだけど・・・

律さん:それ、返品した?

法くん:まさか。間違えた僕が悪いんだから、そのままだよ。

律さん:相変わらず人が良いんだから。未開封なら、返品できなかったの?
そのコバルトブルー、買うつもりなかったんでしょ?

法くん:そりゃそうだけど、不注意のせいだからしかたないかなって。
まぁ、コバルトブルーでもイヤホンの性能は一緒だし。
これも何かの縁だから、大事に使うことにするよ。

問題

法くんは、イヤホンを返品できるでしょうか。

SHIHO先生の解説

ありがちなシチュエーションですが、実はこれは、非常に微妙な問題です。

法律

民法95条は、こう定めています。

意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。
ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

意思表示とは、法律効果を発生させる意思(考え)を表示する行為のことをいいます。

意思表示に錯誤があるとは、内心の意思と、表示した意思が異なることをいいます。

法くんの場合だと、

・内心の意思=黒のイヤホンを買う
・表示した意思=コバルトブルーのイヤホンを買う

となり、両者は異なりますので、意思表示に錯誤があるといえます。

では、「法律行為の要素」とは何でしょうか。

法律行為とは、意思に基づき権利、義務を発生させることが法律で認められている行為のことを言います。

イヤホンを買う場合の法律行為は、売買です。(根拠法:民法555条)

要素とは、重要な部分ということですが、より詳しく説明すると、

その点を誤解しなければ、その法律行為をしなかった
ということが、本人にも一般の人にも明らかである事項

をいいます。

ここでの問題は、イヤホンの色が、「要素」といえるかどうかという点になります。

イヤホンがファッションの一部として楽しまれているという部分を尊重すれば、
イヤホンの色は購入の意思を左右するほどの問題であり、要素といえそうです。

ただ、イヤホンを、単に外で音楽を聴くためのものとしか
考えていない人も一定数いると思われ、
そういう人にとっては、色は大した問題ではないかもしれません。
そうだとすると、イヤホンの色は購入の意思決定には関係なく、
要素とはならないことになります。

もっとも、もしここで法くんが、レジの人に、
「このイヤホンの黒い色が気に入って購入する」
旨話したうえで購入していたら、イヤホンの色は要素になりえます。

判例:大判大正10年12月15日(民録27輯2160頁)、最一判平成元年9月14日(判タ718号75頁)

仮に要素の錯誤が認められれば、その契約は無効(はじめからなかったことになる)です。
ただし、その錯誤が、少し注意すれば防げた錯誤であれば、錯誤をした本人は、契約の無効を主張できません。
これを重過失といいます。

本件では、法くんが手に取ったイヤホンの色が、
外箱を見たらわかるようなものであれば、法くんには重過失があったといえるでしょう。

以上より、本件では、法くんの錯誤は
1.要素の錯誤でない可能性が高い
2.法くんに重過失があった可能性が高い

ため、返品が認められるかどうかは疑わしいと考えられます。

レンタルの場合

今回は売買でしたが、レンタルの場合も同様です。

ただし、売買の場合とレンタルの場合の違いは、
レンタルの場合、借りる前にお店とレンタル契約を結んでいる点です。
入会の際に渡された規約を見てみると面白いかもしれません。

ちなみに、この問題をお店側からみると、
商品の陳列をわかりやすくすることで、
錯誤無効を主張されるリスクを減らすことができますね。
また、レジで商品の中身を確認することも有効です。

薬局でコンディショナーだけを買うと、よく
「こちらコンディショナーですがよろしいですか?」
ときかれますよね。

これは法的にみると、錯誤無効を防ぐための対応となります。