「殉愛」差し止め訴訟は勝訴?名誉棄損とプライバシー侵害の慰謝料はいくら?

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やしきたかじんさんの妻さくらさんからの聴き取りで、
売れっ子作家の百田尚樹さんが「ノンフィクション」として
発行した「殉愛」。

その内容については、たかじんさんに作詞を提供した及川眠子さんが、
twitterで種々の疑問を投げかけられていますが、
とうとうたかじんさんの長女の方が、名誉棄損(とプライバシー侵害?)で
差し止めと損害賠償訴訟を提起したとのことです。

果たして出版物の差し止めは認められるのか、これまでの判例を
概観しながら、法くん、律さんとともに考えてみましょう。


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法くん:こうなると思ったよ。

律さん:私はびっくりしたわ。テレビではみんな、感動したって
べた褒めだったじゃない。

法くん:いやいや、ネットでは、事実無根である根拠があぶりだされ
てて、炎上してたんだよ。

律さん:(ネット見てる時間で、フットサルでもしたらいいのに・・・。)
でも問題としては古くて新しい問題よね。
名誉棄損と表現の自由の衝突。
表現の自由は、個人の人格形成に有効で、民主主義には欠かせない
ものだから、憲法上の権利の中でも、保護すべき必要性が
高いと解されているわ。

法くん:言論には言論で対抗すべきだっていう対抗言論の原則
有力に主張されているよね。だから、今回も、差し止めが認められる
可能性は低いと思うな。

律さん:名誉、つまり人が社会において受けている客観的な評価を
侵害するかどうかで選別したら、検閲と同じになっちゃうものね。

SHIHO先生:今回参考にすべき判例は何かしら?

法くん:表現の自由と人格権(名誉、プライバシー)に関する
リーディングケースの北方ジャーナル事件ですね。
知事選に立候補した候補者のことを、大道ヤシとか
ゴキブリとか書きたてた週刊誌です。
この判決では、差し止めが認められました
名誉権は重要だが、事前差し止めは原則認められないと前置きした
うえで、実体的要件として以下のように判示しています。

ただ、右のような場合においても、その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときは、当該表現行為はその価値が被害者の名誉に劣後することが明らかであるうえ、有効適切な救済方法としての差止めの必要性も肯定されるから、かかる実体的要件を具備するときに限つて、例外的に事前差止めが許されるものというべきであり、このように解しても上来説示にかかる憲法の趣旨に反するものとはいえない。

SHIHO先生:そうね。ただ、法くん自身もいってくれたとおり、
この判例は報道に関するもので、今回のように、小説ではありません。
もっとも、上記説示部分は広く引用されていますね。

律さん:たかじんさんの長女の方は、政治家のような公人
ではないし、出版媒体も週刊誌じゃなくて小説だから、
「石に泳ぐ魚」事件じゃないかしら。
モデルになった韓国籍の方が、雑誌に連載された小説で、
宗教だとか腫瘍があるとかをけなされたとして、名誉棄損、
プライバシー侵害にもとづき、差し止めと損害賠償請求を
求め、差し止めや損害賠償が認められたものですね。

人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当である。どのような場合に侵害行為の差止めが認められるかは、侵害行為の対象となった人物の社会的地位や侵害行為の性質に留意しつつ、予想される侵害行為によって受ける被害者側の不利益と侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較衡量して決すべきである。そして、侵害行為が明らかに予想され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるときは侵害行為の差止めを肯認すべきである。
被上告人は、大学院生にすぎず公的立場にある者ではなく、また、本件小説において問題とされている表現内容は、公共の利害に関する事項でもない。さらに、本件小説の出版等がされれば、被上告人の精神的苦痛が倍加され、被上告人が平穏な日常生活や社会生活を送ることが困難となるおそれがある。そして、本件小説を読む者が新たに加わるごとに、被上告人の精神的苦痛が増加し、被上告人の平穏な日常生活が害される可能性も増大するもので、出版等による公表を差し止める必要性は極めて大きい。
 以上によれば、被上告人のA及び上告人新潮社らに対する本件小説の出版等の差止め請求は肯認されるべきである。
(平成14年 9月24日判例)

SHIHO先生:律さんが挙げてくれた判例が今回は参考になりそう
ですね。この判例では、新潮社と作家の方に、連帯して100万円の
支払いが命じられました。

法くん:その判例でも認められてて、事案も似ているから、
今回も同じく認められる可能性が高い気がしてきたな。
たかじんさんの娘さんが、どれだけ損失を被るおそれがあるかが
焦点になりそう。

さて、どうなることやら。

※発行者は幻冬舎。ハリーポッターの出版社のようです。

今年1月に亡くなったタレントで歌手のやしきたかじんさんの闘病生活を書いた、作家の百田尚樹氏の著作「殉愛」の記述で名誉を傷つけられたとして、たかじんさんの長女(41)が21日、発行元の幻冬舎に発行差し止めと1100万円の損害賠償を求める訴訟を、東京地裁に起こした。長女の代理人が明らかにした。
「殉愛」は今月7日に発売。たかじんさんの妻の話などに基づいて書かれたノンフィクション。
長女側は訴状で、たかじんさんが食道がんだと知った長女が「自業自得やな」とのメールを送ったとする記述や、たびたび金の無心をしていたかのように書かれた部分などは虚偽だと主張。「1人の遺族の話を根拠に、他の親族の取材をせずに一方的に攻撃するもの」としている。
幻冬舎は「担当者がいないのでコメントできない」としている。
(huffingtonpost記事より)